Knews No.39 HEALTHY LIVING

「気管支鏡」のはなし

石田  直 
呼吸器内科 主任部長
日本内科学会総合内科専門医、指導医
日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医、指導医
日本呼吸器学会専門医、指導医
日本感染症学会専門医、指導医
日本アレルギー学会専門医
米国胸部医会フェロー
インフェクションコントロールドクター
日本化学療法学会抗菌薬指導医、臨床試験指導者
日本臨床腫瘍学会暫定指導医
日本結核病学会結核・抗酸菌症指導医

「 咳(せき)」が続くときは、どんな病気が考えられますか?

 せきは気道への異物混入の防止・排除するための生理的反射で起こりますので、咳ばらいやむせたときの咳は心配ありません。ただ、せきを起こす原因に、間質性肺炎や肺結核、肺がんなどの肺疾患のほか、心不全などの心疾患が潜んでいる可能性もありますので、それらの重大な疾患がないかを見極める必要があります。
 せきには以下の通りさまざまな種類があります。

持続期間によって分類すると
急性咳嗽(がいそう) せきが始まって3週間以内に収まるせき
遷延性咳嗽 3~8週間持続するせき
慢性咳嗽 8週間以上継続するせき

 

性状によって分類すると
乾性咳嗽 せきが始まって3週間以内に収まるせき
湿性咳嗽 3~8週間持続するせき

 

原因によって分類すると
感染性咳嗽 せきが始まって3週間以内に収まるせき
非感染性咳嗽 3~8週間持続するせき

どの程度せきが続くと注意が必要でしょうか?

 風邪やインフルエンザでのせきは、ほとんど3週間以内で治まります。特に8週間以上続く場合は、肺がんや結核、マイコプラズマなどが考えられます。まずは胸部レントゲン検査で肺の疾患の有無をスクリーニングします。

気管支鏡という検査を聞いたことがあります

イメージ図

 原因不明のせきが続いた場合や検査で胸部の異常が疑われた際などに、肺や気管支などの病気を正確に診断するための検査で、当院では2017年に約600例を実施しています。
 気管支鏡は直径5–6mmの細くて柔らかい管で、胸の奥深くにある肺につながる気管や気管支の中を見る器械です。胃カメラと同じ構造ですが、胃カメラと比較すると細くできています。当院ではのどに麻酔を行って気管支鏡を挿入し、気管や気管支を観察したり、組織や細胞などを採取したりします。
 気管支鏡の検査では組織や細胞を取る「経気管支生検」、気管支のそばにある病変を針で穿刺する「経気管支針生検」、肺の一部を滅菌した生理食塩水で洗浄して中の細胞などを調べる「気管支肺胞洗浄」があります。

気管支鏡の検査の手順を教えてください

 水やお茶のみの水分は取っても問題ありませんが、検査前の一食は絶食となります。検査直前にのどの麻酔をした後、ベッドに仰向けに寝ていただきます。マウスピースをくわえていただき、適宜眠たくなる薬を使用しながら気管支鏡を挿入します。点滴をしながら実施することもあります。
 検査中に息はできますが、カメラが入っていますので声は出さないようにしていただきます。苦しいときには手で合図をしてください。通常の検査時間は20~30分程度ですが、検査内容によってはさらに時間を要することもあります。
 検査後の安静時間は2時間で、血圧や胸の音、酸素濃度を確認します。のどの麻酔はすぐに切れないため、検査後2時間は水や食べ物を摂れません。2時間経過後は、最初に少量の水を飲んでむせないことを確認してください。気管支鏡当日は車の運転ができません。

気管支鏡を実施するのが怖いです

 患者さんの負担の軽減のため、適宜眠くなる薬を使用することがあります。これを鎮静と言います。鎮静とは、治療の際に薬剤を使って意識レベルを下げることを指します。一定時間、身体を制止させる必要があったり、患者さんの痛みを和らげる必要があったりする場合に行います。鎮静に用いる薬剤は複数あり、患者さんの病状や状況を考慮して使用薬剤を決定します。

どのような合併症がありますか

 麻酔薬によるアレルギーや中毒、肺・気管支からの出血、肺から空気が漏れることで、肺が潰れてへこんでしまう気胸などがあります。合併症に対しては内科的・外科的処置を行います。

気管支鏡の分野で新しい器械は取り入れられていますか

 組織を凍結して採取するクライオバイオプシー(凍結生検)を、この2月から導入しました。従来の気管支鏡で採取できる組織は約1–2mmで、組織が小さいため病理診断が困難な場合がありました。このクライオバイオプシーは組織を採取する器具が-45℃の低温となり、組織を凍結して周囲ごと採取します。これまでの方法よりも大きく組織が採取できるため高い診断率が得られ、広範囲に広が
る肺疾患の病理診断や、肺癌の組織診断に有用です。なかでも、間質性肺炎などの広範囲に広がる肺疾患では、確実な病理診断のためには、胸腔鏡下肺生検と呼ばれる手術が必要になることもありますが、このクライオバイオプシーがある程度の代替となる可能性があります。
 一方で、大きな組織を採取するため、出血や気胸などの合併症が起こる恐れがありますので、適応決定や施行は慎重に行う必要があります。当院ではクライオバイオプシーは、入院して実施しています。