Knews No.40 HEALTHY LIVING

「直腸がん」のはなし

横田  満
外科 医長
日本外科学会専門医
日本消化器外科学会専門医・指導医
日本がん治療認定医機構認定医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
日本大腸肛門病学会専門医
The American Society of Colon and Rectal Surgeons International fellow

直腸がんとはどのようながんですか?

 大腸は小腸の後につづく約1.5mの腸管で結腸と直腸に分けられます(図1)。直腸は肛門につながり、肛門周囲の2種類の内肛門括約筋と外肛門括約筋で肛門を閉めることにより、ガスや便が漏れでないようになっています。また、大腸の壁は粘膜、筋肉、そして脂肪というようにいくつかの層構造となっています(図2)。がんという病気は最初に腸の粘膜にでき、病気が進行するにつれ筋肉、脂肪と深く広がっていきます。はじめは小さなものですが、数年かけて目に見える大きさになります。直腸がんは大腸の中でも直腸にできたがんのことを言います。

図1.大腸の区分

図2.大腸壁の構造

 

直腸がんの症状を教えてください。

 直腸がんは肛門近くにできるため排便時に出血がある、便に血が混じる・血が付着する、便秘・下痢といった排便の変化などが初発症状として多くなります。早期のものでは自覚症状がないことも多く、健診で発見されることも少なくありません。

治療方法を教えてください。

 直腸がんの治療の主体は手術治療となりますが、病気の進行具合によっては放射線治療や化学療法(抗がん剤を投与する治療)を組み合わせて強力な治療が必要となります。手術では、腫瘍を含む腸管を切除し、それと同時に転移する可能性があるリンパ節も切除(リンパ節郭清)します。その後、腸同士をつなぎ合わせ(吻合)、再び肛門から便が出るようにします。
 手術の方法も技術や機械の進歩とともに変化し、お腹を大きく開けて手術(開腹手術)していたのが、お腹を炭酸ガスで膨らませ、挿入したカメラ(腹腔鏡)からテレビモニターに映し出された画像を見ながら手術する腹腔鏡手術に移り変わりました。腹腔鏡手術は、開腹手術に比べ出血を少なくでき、傷が小さく術後の痛みが少ない、日常生活への復帰が早いことなどがメリットとしてあります。さらに2018年4月より、ロボット手術が直腸がんに対して保険適用となりました。

ロボット手術はどのように実施されるのですか?

手術室のダヴィンチ(左)とコンソール(右)

 ダヴィンチという手術支援ロボットを用いて手術を行います。写真のように手術は挿入した腹腔鏡からの映像を、コンソールという操作台の中で見ながら、術者の手の代わりとなる鉗子と呼ばれる道具を操作し手術を行います。
 ロボット手術でも腹腔鏡手術同様に、手術部位をカメラで拡大して見ながら手術操作を行うため、細い血管も良く見え、少ない出血量におさえられます。ロボット手術では、手術映像が鮮明な3次元画像として映し出され、操作する鉗子が多関節で人間の手以上に自由な動きをします。さらに、術者が実際に6cm動かしても鉗子は2cmしか動かない(動きが1/3に縮小して伝えられる)仕組みで、もちろん鉗子に手振れも伝わらないことから、繊細で正確な操作が可能になります。このようなメリットは狭い骨盤内で排尿機能や性機能をつかさどる神経を傷つけないように、さらには骨盤の奥深く肛門近くで操作する際に威力を発揮します。

最後に、直腸がんの予防や早期発見のために、気を付けるポイントを教えてください。

 直腸がんの症状としてみられる排便時の出血は、痔の症状とよく似ています。そのため「痔による出血だろう」と思い病院を受診せずに様子をみられる方もおられます。しかし、その症状が直腸がんの症状であることもありますので自己判断せずに病院を受診し診察を受けてください。症状のない場合でも便潜血検査による検診を受けておくと安心です。病気を早く発見できればその分早期のがんの可能性が高まります。早期のがんは進行したものに比べて、自分の肛門を温存できる可能性が高くなるだけでなく、完治の確率が高くなります。

直腸がんの予防

 直腸がんに限らず大腸がんの原因として食生活の欧米化があげられます。肉類、卵、乳製品などの摂取が増える一方、食物繊維の摂取が減っていることです。よって、食物繊維を積極的に摂ることは大腸がんにかかる危険度を下げる効果があるといわれています。また、アルコール飲料の飲み過ぎも大腸がんの原因の一つと考えられていますので、アルコールは控え目にすることもよいです。