Knews No.42 HEALTHY LIVING

「血液がん」のはなし

上田 恭典
血液内科 主任部長
日本内科学会認定医、指導医
日本血液学会認定血液専門医、認定血液指導医

日本アフェレシス学会認定血漿交換療法専門医
日本臨床腫瘍学会暫定指導医
日本輸血・細胞治療学会認定医
日本がん治療認定医機構暫定教育医
日本臨床薬理学会特別指導医
日本自己血輸血学会認定・自己血輸血責任医師
日本造血細胞移植学会造血細胞移植認定医
日本輸血・細胞治療学会細胞治療認定管理師

血液のがんについて教えてください

 血液には酸素を運ぶ赤血球や細菌・ウイルスから体を守る白血球、止血に関係する血小板などの血球があり、それらは骨の内部にある骨髄で血球のもととなる造血幹細胞が分化(成長)したものです。血液のがんは、この分化の過程で細胞が悪性化して増殖し、腫瘍を作ったり、正常な造血ができなくなったりする病気です。皆さんが血液がんとして思い浮かべやすい急性白血病は、がん化した細胞の由来から「骨髄性」と「リンパ性」に分かれます。また、血液がんは悪化した血球の段階や種類によって、このほかに、慢性骨髄性(リンパ性)白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫や多発性骨髄腫などに分類されます。

「癌」と「がん」の違い
癌 :体の表面や臓器(消化器、呼吸器など)の表面を覆う上皮細胞が自律増殖し、周囲組織への浸潤や離れた臓器へ転移をする性質・状態の悪性腫瘍を指します。
がん:非上皮細胞(血液や骨など)、上皮細胞を問わず、悪性腫瘍のことを指します。

原因や症状を教えてください

 血液がんは血球が分裂する際に、遺伝子や染色体がうまく複製できず、異常な遺伝子が生じることで起こると考えられています。化学物質や放射線、ウイルスが原因と考えられる場合もあります。急性白血病は、がん化した白血球が骨髄で無制限に増加し、正常な造血ができなくなり、正常血球が著しく減少します。そのため、身体にあざなどの出血傾向が生じたり、感染による発熱や、貧血による動悸が生じたりします。リンパ腫では、改善しないリンパ節腫大や発熱が、多発性骨髄腫では原因不明の骨痛や骨折、蛋白尿がしばし認められます。

白血病の検査は?

 血液検査で赤血球や血小板の数や形態が変化していたり、白血球数の異常や、通常は現れない血液細胞を認めたりする場合、その原因を調べるために骨髄検査を行います。
 骨髄検査は局所麻酔後に腰の骨である腸骨、もしくは胸の中央にある胸骨に針を刺して、骨の中にある骨髄から血液(骨髄液)を注射器で採取します。この骨髄液中に含まれる細胞の形態や染色性を顕微鏡で調べ、必要に応じて疾患の原因となる染色体や遺伝子の後天的な異常について調べます。

白血病の治療方法は?

 自分自身の造血幹細胞を使う自家移植と他人の細胞を使う同種移植があります。自家移植では、通常では造血障害が生じるため使用できないような超大量の薬剤を、臓器障害が生じる限界まで使用し、あらかじめ凍結保存した自分の造血幹細胞を移植します。同種移植は、他人の造血が免疫を担うようになるため、他人のリンパ球が患者さんを攻撃する移植片対宿主病が問題になりますが、この力が患者さん由来の血液がん細胞を攻撃することが分かり、現在では一種の免疫療法ととらえられています。免疫の力が化学療法で完全に消しきれない血液がんの細胞を攻撃し、排除してくれるのです。自家移植は化学療法の延長線上に、同種移植は化学療法と免疫療法を組み合わせた治療と考えることができます。

白血病を予防することはできますか?

 先ほど述べたことの続きとなりますが、白血病の発症には遺伝子の異常が深く関わっていますので、遺伝子の異常を起こすような状態を回避することが望まれます。日常生活の中では、喫煙が挙げられます。肺癌だけではなく、血液中に移行した発癌物質が白血病も生じやすくします。
 不必要な被ばくも避ける必要があります。また、一部の方に成人T細胞白血病を起こすHTLV-1ウイルスは母乳が主な感染経路となりますので、妊婦健診と適切な対応が重要となります。

倉敷中央病院の治療実績を教えてください

 当院では年間約40人の患者さんが、新たに急性白血病と診断され治療を開始しています。42床の準無菌室と、3床の完全無菌室を用意して、治療の安全性を確保しています。骨髄異形成症候群が年間約30人、治癒可能な血液がんの代表格である悪性リンパ腫は年間約130人の方が新たに治療を開始しています。
 移植は2018年末までに、548例の同種造血幹細胞移植を行っています。自家末梢血幹細胞移植は2018年末までに190例です。