Knews No.43 HEALTHY LIVING

「大動脈弁狭窄症」のはなし

福 康志
循環器内科 部長
日本内科学会認定医、総合内科専門医
日本循環器学会専門医
日本心血管インターベンション治療学会専門医
心臓リハビリテーション指導士

大動脈弁狭窄症とはどのような病気ですか?

 心臓には4つの部屋があり、その部屋の出口には弁がついています。左心室から大動脈への出口にある大動脈弁の開きが悪くなり、血液の流れが妨げられることを「大動脈弁狭窄症」といいます。大動脈弁狭窄症になると、血液の流れに異常が発生して心臓に負担がかかり、心臓の筋肉が徐々に障害されて機能が低下します。負担がかかると、胸痛や動くとつらい、場合によっては失神することもあります。現在は高齢化に伴い、大動脈弁狭窄症の患者さんが増加しています。大動脈弁狭窄症を含む心臓弁膜症の患者数は、推定200~300万人とされていますが、症状に気づかず、受診に至らない患者さんも多くいると言われています。

治療法を教えてください。

 大動脈弁狭窄症には、3つの治療法があります。
 1つは薬物による保存的治療です。症状の緩和や大動脈弁狭窄症の進行を抑制しますが、根治的な治療方法ではないため、重症化すれば手術かTAVIが必要になります。
 2つ目は開胸手術です。胸の真ん中を30センチほど切開して、胸骨という丈夫な骨を縦切りにします。人工心肺を装着して心臓を停止させ、悪い弁を新しい人工弁に置換する手術です。外科手術で行う人工弁置換は安定した成績を誇る治療方法で、現在でも治療の第一選択となります。
 ただ、高齢、心臓の再手術となる場合、ステロイド内服、低栄養であるなど、手術がハイリスクな方は手術ができませんでした。そのようなハイリスクな患者さんに対し、カテーテルで弁を治療する技術であるTAVIが2013年に保険適用され、手術が困難だった患者さんを中心に、大きな広がりをみせています。

TAVIはどのような治療ですか

写真1.人工弁を留置する様子

 TAVIは開胸や心臓を止めることなく、カテーテルで人工弁を留置する治療法です。通常は足の付け根に麻酔をして、足の付け根の動脈からカテーテルを挿入します。次にガイドワイヤーという細い針金を心臓内に挿入し、ワイヤーに沿わせて風船の付いたカテーテルを挿入して狭くなった弁を広げます。風船で広げただけでは数か月以内に弁が狭くなるため、風船の上に人工弁を載せたカテーテルを体内に挿入して、自分の弁の中に新しい人工弁を留置します。弁を留置した後は足からの管を抜いて治療が終了となります。
 治療は約1時間で終わります。低侵襲であることに加えて、人工心肺を使用しないため患者さんの体への負担が少なく、入院期間も約1週間と短いのが特徴です。

どんな患者さんでもTAVIで治療ができますか

 TAVIはどの患者さんでも適用となる訳ではありません。具体的には、高齢、肺や肝臓の病気の合併がある、心臓外科手術を受けたことがある、寝たきりであることなどが挙げられます。
 TAVIを行う上で最も重要となるのは、適応を含めた術前評価です。造影CTや心臓超音波検査等で心臓および全身状態の評価を行い、循環器内科医、心臓血管外科医、麻酔科医、画像診断専門医などの多職種からなるハートチームでカンファレンスを行い、TAVIの適応および治療方針を決定します。

倉敷中央病院の治療実績を教えてください

 2019年末までに374件のTAVIを行い、患者さんの平均年齢は85歳と高齢でした。このうち、300件以上は足からカテーテルを挿入するTAVI(TF-TAVI)を施行しました。これは患者さんの負担がより少ない治療法であり、術後30日死亡は0%と極めて良好な成績を維持しています。さらに、以前は全身麻酔で治療をしていましたが、2017年8月より局所麻酔でTAVIを行うようになり、術後5日程度で退院できるようになりました。高齢でリスクの高い患者さんでも、クオリティオブライフ、つまり生活の質を落とすことなく、多くの方が自宅に退院されています。
 大動脈弁狭窄症は怖い病気ではありますが、高齢の方でもTAVIで治療ができる時代になりました。心臓弁膜症が気になる方は、かかりつけの先生にご相談いただくか、当院循環器内科外来へお越しください。