Knews No.44 HEALTHY LIVING

「肺がんのda Vinci手術」のはなし

奥村 典仁
呼吸器外科 主任部長
日本呼吸器学会専門医、指導医
日本外科学会専門医
日本胸部外科学会認定医、指導医
日本呼吸器外科学会指導医
呼吸器外科専門医合同委員会呼吸器外科専門医
日本がん治療認定医機構暫定教育医
世界肺癌学会(IASLC)正会員

肺がんの初期症状を教えてください

 肺がんの早期はほとんど無症状のため、検診やほかの病気で胸部X線やCT撮影した際に偶然見つかることが多いです。咳や痰、胸痛などは進行期の症状で、特に血痰は肺がんの可能性が高いので早めに専門医療機関への受診をお勧めします。

肺がんの治療法は

 CTや気管支鏡などの検査で肺がんと分かった場合は、全身CTやPET検査、MRIなどの検査で進行度を調べます。進行度はⅠ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期の4段階で、大きさやリンパ節の転移の有無によってⅣ期以外はA、Bにさらに分類します。手術はⅠ~Ⅲ期の前半(ⅢA期)まで行う施設が多いですが、当院ではⅢAの患者さんには手術前の抗がん剤や放射線治療を行ったうえで手術に臨みます。

肺がんでもda Vinci手術を受けられますか

 当院呼吸器外科では20年前より胸腔鏡手術に取り組み、現在では8割以上が胸腔鏡手術で、そのほとんどが最も低侵襲な「完全鏡視下手術」で行っています。完全胸腔鏡手術は脇の下のあたりに計3か所、約0.5~3センチを切開して小型カメラや手術器具を挿入する手術です。傷が小さく、胸壁・筋肉・肋骨へのダメージが少ないため、より速やかな術後回復が期待されます。
 しかし、胸腔鏡手術には直線的な鉗子の動作操作の制限という欠点があります。胸腔鏡手術の持つ低侵襲性を保った上で、その欠点を補完した手術支援ロボットによる内視鏡下手術が、対象疾患の診療科で普及しています。
 呼吸器外科では代表的な腫瘍性疾患の肺癌(原発性・転移性)と縦隔腫瘍(良性・悪性)が、2018年に保険適用となりました。当院呼吸器外科でのda Vinci手術は、国内資格を取得して2019年5月末より開始し、2020年5月末までに35例(肺癌33例、縦隔腫瘍2例)と短期間で着実に実績を重ねております。

da Vinci手術の特徴を教えてください

● 医師は内視鏡の3Dカメラで映し出された鮮明な立体画像を見ながら手術します。この3Dカメラのデジタルズーム機能は、術部を10倍まで拡大できます。(図1)
●手術操作に用いるロボットアームは、人の手以上に器用な動きが可能で、狭い隙間でも自由に器具を操作できます。ロボットアームは医師の手の動きと完璧に連動し、自分でメスを持っているような感覚で手術ができます。(写真2)
●ロボットにしかできない動き(関節の360度回転など)が加わることで、開胸手術では困難だった操作を可能とします。手先の震えが伝わらない手ぶれ補正機能があり、心臓の近くの血管や気管支の剥離など、緻密さが要求される作業も正確にできます。(図2)

図1

写真2

図2

初回受診から手術までは時間がかかりますか

 がんへの不安を抱えたまま長く待たせないためにも、当科では手術までの日数にもこだわってきました。呼吸器外科手術に適したda Vinci Xiは現在当院に1台であり、他科も使用していることから、当科のロボット手術は週1例と限られています。このため現状、当科を初診されてから手術までの平均日数は29.5日(11日~95日)と従来の肺がん手術より若干長くなっています。しかし術後の平均入院日数は4.5日(3日~7日)とやや短い傾向です。

患者さんへメッセージをお願いします

 国内では呼吸器外科領域のロボット支援下手術の歴史は浅く、十分なエビデンスは蓄積されていません。しかし、3次元の拡大視野で確認できる上、多関節を有する自由度の高いロボット鉗子を用いて精緻な手術操作が可能となるロボット支援下手術は、新たな低侵襲手術となる可能性を秘めています。当科では胸腔鏡手術で全国的にも有数の実績を残していますが、さらなる前進を目指してロボット支援下手術に参入しました。今後はこれまでの胸腔鏡手術とロボット支援下手術のすみ分けを検討しながら、患者さんにとって最適の手術を提供できる「引き出し」の多い呼吸器外科として、地域医療への貢献を目指していきます。