Knews No.45 HEALTHY LIVING

「肝臓がん」のはなし

外科 医長
橋田 和樹

●日本外科学会専門医
●日本消化器外科学会専門医
●日本内視鏡外科学会技術認定医
●日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医

肝臓がんはどんな病気ですか

肝臓がんには、肝臓そのものから発生した原発性肝臓がんと、他の臓器から転移した転移性肝臓がんがあり、原発性肝臓がんのほとんどは肝細胞がんと呼ばれるタイプです。肝臓がんの約80%近くの方がB型肝炎やC型肝炎にかかっています。また最近では生活習慣による、アルコール性肝障害や脂肪肝などが原因の肝臓がんも増えています。

肝臓がんの症状

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、がまん強い臓器です。肝臓がんが発生しても、初期はほとんど症状がなく、見つかりにくいのが特徴です。しかし進行してくると、腹部の張りやしこり、痛み、圧迫感などを感じるようになります。肝硬変を伴うと肝機能が低下し、食欲不振、全身の倦怠感といった症状に加え、腹水や足のむくみ、黄疸などがみられます。さらに進行すると、吐血、下血、意識障害などが起こることもあります。

肝臓がんの治療法

切除可能ながんは、手術によって取り除きます。手術の場合、がんとその周囲を取り除く肝切除手術と、肝機能が悪く切除が難しい場合には肝臓をすべて摘出して移植する肝移植手術があります。腫瘍の大きさ、個数によっては、体外から差し込んだ電極から電流を流すラジオ波焼灼療法(RFA)や、エタノールを注入する経皮的エタノール注入療法(PEIT)など、腫瘍を壊死させる局所穿刺療法が有効な場合もあります。治療は肝機能がどれだけ維持できているか、手術に耐えられる全身状態かなどを考慮して判断しますが、当院では患者さんの身体への負担が少ない腹腔鏡下肝切除術を2014年から導入しており、年間で約100例近くを行っていて国内ではトップクラスの実績です。

負担の少ない腹腔鏡下肝切除術

腹腔鏡は内視鏡の一種で、腹部を治療するときに使用する小型カメラのことです。腹腔鏡を使用して手術を行うことを腹腔鏡下手術といい、肝切除をする場合は、腹腔鏡下肝切除術と呼びます。開腹手術のように腹部を大きく切ることはなく、4~5か所、直径5~10mmの切開に加え、がんを取り出す際にへそやへその近くを小切開するだけなので、小さな傷で済みます。また従来の開腹手術では出血のため輸血が必要な大手術が多かったのですが、腹腔鏡手術では輸血が必要なほど出血することはほとんどありません。腹腔鏡手術は患者さんの負担が少ないことが最大のメリットで、術後数日で退院、社会復帰を目指すことができます。例えば、肝臓の表面に近い小さな病変の場合、手術翌日から食事やリハビリが始まり、手術後2~4日程度で退院となります。
また当院の腹腔鏡手術は、CTやMRIなどの断層画像から高精度な3D画像を描出し解析を行う3D画像解析システムや、術中に腫瘍の位置を把握できるインドシアニングリーン(ICG)螢光法など、最先端の機器を導入することで、より安心で安全な医療を目指しています。

3D画像解析システム

インドシアニングリーン(ICG)螢光法

腹腔鏡下肝切除術は誰でも受けられますか?

腹腔鏡下肝切除術は、がんの個数には制限がありますが、肝臓の状態が問題なければ、基本的にはどの位置にがんがあっても対象と考えます。年齢の制限はありませんので、身体の負担が少ないことから、高齢者や持病があって開腹手術が難しい人にも行える治療です。

患者さんへメッセージをお願いします

腹腔鏡下肝切除術は約30年前に世界で初めて行われて以来、手術道具の改良や手術手技の成熟とともに広く行われるようになってきましたが、日本で一般的に行われるようになったのはここ数年の話です。そのため、腹腔鏡下肝切除術を行っている施設は現状ではまだまだ少ない状況です。当院では当初から積極的に腹腔鏡下肝切除術を導入しており、現在日本でもトップクラスの実績があります。肝臓の小範囲を切除する肝部分切除から、日本では限られた施設でしか行われていない肝臓の大きな範囲を切除する肝区域切除、肝葉切除まで、我々の施設では比較的短い手術時間で安全に行っています。これまでに培った経験をもとに、患者さんお一人おひとりにとって最適な手術を提供できるように心がけています。