患者さん向け広報誌「Kニュース」No.15
インタビュー
整形外科 外来予約制について -地域の急性期医療を担うために-
9月から整形外科の外来診療が予約制になったということですが、予約していないと、診てもらえないのですか?
松下 そうですね。当院での外来治療が必要で、継続して受診されている方(予約のある方)と、地域の医療機関を受診され、紹介状をもらわれた方を優先して、診療させていただくようになりました。
紹介状がないと、診察してもらえないのですか?
松下 当科では、毎日約300人の患者さんが来院されています。そのうち約30%が予約のない患者さんです。これまでは、予約のない患者さんの診療時間枠も設けていましたが、突然来られた患者さんはどれくらい診療時間がかかるのか予測ができない場合が多いので、もともと予約されていた患者さんにまで迷惑がかかります。
また、当科の診療の内容も、緊急治療や入院治療の必要な患者さんから、腰痛や骨粗鬆症など比較的軽症の患者さんまで、幅広い疾患を診ています。
当院としては急性期医療を担うべく努力をしていますが、現実には、かかりつけ医的な役割を求められています。そのため、外来診療の許容量を超えてしまい、外来の待ち時間が長くなるなど、患者さんにご迷惑をおかけしています。
確かに、ずいぶん待たされます。予約が予約になっていませんよね。
松下 実は、待ち時間だけの問題ではなく、手術の開始時間が遅れたり、入院診療にも深刻な影響が出てきているのです。
例えば、外来が時間通りに終らないと、手術時間の開始が遅くなります。手術も一つだけではないので、次々に遅れて、夜中までかかる場合もあります。手術が予定どおりに始まらないと、患者さんも不安になられるし、夜遅くまで手術が続くと、医師も疲れます。
また、外来診療に時間をとられると、当院が本来力を入れるべき入院診療の時間がなくなり、夜遅く入院患者さんを診療しなければならないといったことが起こります。
患者さんにとっても、先生にとっても大変ですね。どういうふうになるのがよいのでしょう
松下 最近、医療の分野では地域完結型の医療ということばが使われるようになりました。
地域の医療機関が連携し、普段の診療はかかりつけの先生に診ていただいて、専門の検査や手術が必要な場合に急性期病院で治療を受けるということです。これまでのように、病気になったら一つの病院で治るまで診てもらうというのではなくて、地域の医療機関が役割分担をして患者さんを治療していくという体制です。
当院は、急性期病院が当院の役割だと考え、施設設備はもちろん、人的体制も整えています。この点をご理解いただいて、ご協力いただければと思います。これは、整形外科だけでなく、すべての科でいえることです。
かかりつけ医の先生は、皆さん方の身近にいらっしゃるので、普段から健康状態をよくご存じで、いろんな相談に応じていただけると思います。また、専門的な検査や治療が必要になった場合は、紹介状を書いてくださいます。かかりつけ医をもたれることは、皆さんの健康管理にとって有意義だと思います。
予約制は今後、他の科にも広がるのですか?
松下 各診療科ごとにいろいろ特性がありますし、開業されている診療科にもバラつきがありますので、すべての科というわけにはいきませんが、適応可能な診療科から導入していく予定です。
これまで当院は、大きなかかりつけ医として皆さま方から信頼をいただいてきました。今回のことで「敷居が高くなった」と感じられる方もいらっしゃるかと思いますが、より広い社会からの要望にお応えするものですので、ご協力のほど、よろしくお願いいたします。地域の先生方と当院は密接に連携していますので、かかりつけの先生を通して、皆さま方と当院も結ばれているということをご承知おきください。
トピックス
「『患者の皆さまの権利』宣言」を改定しました
倉敷中央病院では平成14年に「『患者の皆さまの権利』宣言」を制定しましたが、今日の医療情勢に合わせて、本年8月に一部改定をしました。
改定の主な箇所は3に「試験的治療をすすめられた時の権利」を追加したこと。
また、当院は患者さんとわれわれ医療スタッフが協力して患者さん参加の医療を行っていきたいと考え、「患者のみなさまへのお願い」を設けています。このたび「ご自身の治療に必要な診療上のルールの遵守」と「研修医等の研修・実習へのご理解とご協力」の2項目を追加しました。ご協力のほど、よろしくお願いします。
ヘルシーリビング
歯周病について
はじめに
私たちの生命活動は、言うまでもなく食べることによって支えられています。食べるためになくてはならないのが「歯」ですが、歯の寿命は長くなった平均寿命に追いついていません。歯を失う原因の大部分は虫歯と歯周病で、この二つで歯の疾患の約87%を占めています。
特に成人にとって恐ろしいのは歯周病で、初期段階で自覚症状がないことから「サイレント・ディズィーズ(沈黙の病)」と呼ばれています。歯周病のピークは45~54歳で88%の人がかかっており、中高年者が歯を失う最大の原因となっています。
歯周病は細菌による感染症
虫歯も歯周病もその原因は歯にこびりつく歯垢(プラーク)の中の細菌です。歯垢の約8割は細菌で、歯垢1mg中に1億~10億もの細菌が住みついています。そのうち約10種類の細菌が虫歯や歯周病に関係していると言われています。
歯垢が歯と歯肉の間に付着すると歯肉の炎症(歯肉炎)が起きます。歯肉炎が進行すると歯の周りに歯周ポケットという溝ができ、ここにも歯垢や歯石が付着します。その中の細菌(歯周病原菌)の毒素によって、歯を支えている歯根膜や歯槽骨といった歯周組織まで破壊された状態が歯周炎で、昔は「歯槽膿漏」と呼ばれていました。
歯周病は生活習慣病
歯周病は細菌以外に歯磨き・喫煙・食事などの生活習慣やストレス、疲労によっても、その進行が大きく左右されます。
歯磨きの習慣 … 適切な歯磨きができていないと歯周病原菌の温床である歯垢がたまります。
喫煙の習慣 … たばこにより歯肉の血行不良、白血球の異常が生じ、細菌に対する防御機構が低下します。喫煙は歯周病のハイリスク因子で、喫煙者は非喫煙者に比べ歯周病にかかる危険性が5倍という報告があります。
食習慣 … 糖分の取り過ぎは歯周病原菌に快適な環境を与え、歯周病になりやすくなります。
咬み癖の習慣 … 咬み合わせの異常による偏った咬み方、歯軋りやくいしばりによって歯周組織に過剰な負担がかかります。
ストレス … ストレスがたまると唾液分泌が低下し、口の中の細菌が増加するとともに、感染に対する抵抗力や歯周組織の修復力が弱くなります。
身体活動と休息の習慣 … 適度の運動と節度ある休息・睡眠の習慣は、全身の健康を促進し、細菌に対する抵抗性を維持することで歯周病になりにくくします。
歯医者に行かない習慣 … 定期的に歯科受診していなければ歯周病の発見が遅れ、重症の歯周病に進行する傾向があります。
歯周病と全身疾患
糖尿病、肥満、高血圧、腎不全、骨粗鬆症などの全身疾患や降圧剤、免疫抑制剤、狭心症の治療薬も歯周病を悪化させる要因となります。特に糖尿病は、その合併症である毛細血管の障害によって組織修復力が低下し、歯周病の悪化を招きます。
一方、歯周病が進行すると歯周ポケットの内部は潰瘍化します。すべての歯に深さ5mmの歯周ポケットがあるとすれば手のひらくらいの面積になります。皮膚や内臓にこれだけの潰瘍があれば、全身に何らかの影響を及ぼすのは当然で、歯周病も例外ではありません。歯周病原菌とその毒素、白血球から放出される物質が血液を介して全身の臓器に運ばれ、様々な悪影響をもたらすことが指摘されています。
心臓では、冠動脈の血管内皮細胞に代表的な歯周病原菌の存在が証明され、細菌性心内膜炎の感染巣にも歯周病原菌が確認されています。歯周病原菌の毒素成分によって血管壁が肥厚し、動脈硬化や冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)が起こることも報告されています。
白血球から放出されるTNF―αという物質は、インシュリン抵抗性を高めて糖尿病に悪影響を及ぼすことがわかりました。なぜ高齢者が肺炎で死亡するのか、その原因は歯周病原菌を含む口の中の細菌や食べ物が、誤って肺の中に入ってしまうこと(不顕性誤嚥)によって起こる誤嚥性肺炎がほとんどです。
最近の慢性肝炎に対する治療
国の生活習慣病対策『健康日本21』でも歯周病はターゲットの一つになっています。
その施策では「成人期の歯周病予防」として
- 歯磨き法の指導・普及
- 喫煙の健康影響に関する知識の普及
- かかりつけ歯科医機能の充実および定期的歯科検診の推進
がとりあげられています。
歯周病の予防と治療
虫歯や歯周病は自然に治ることはありません。自分の歯の状態を正確に把握し、それに応じた予防が必要になります。急速に歯が失われる40歳代以降では、歯周疾患検診を受け、専門家の指導を受けることが大切です。また、検診と指導はできる限りこまめに続けることで大きな効果が期待できます。
歯周病の予防や進行を阻止する上で最も重要なのは、大きな原因である歯垢を徹底的に取り除くことです。これをプラークコントロールといいます。それにはセルフケアとして食後や就寝前にきちんと歯磨きをすることが大切です。歯肉炎の段階であれば、歯磨きだけでほぼ元の健康な状態に戻すことができます。食べかすだけでなく歯垢まで取り除くため、歯の形や生え方に合わせた効果的な歯磨き法を歯科医院で指導してもらいましょう。
歯周炎になって歯周ポケットが形成されると、歯磨きだけでプラークコントロールを行うことは不可能です。歯科医院でスケーラーという器具を使い、歯周ポケット内の歯垢や歯石を除去する必要があります。この処置をスケーリング・ルートプレーニングといい、歯周病の重症度にもよりますが、3~6か月に1回定期的に続けていくことが歯周病のコントロールに効果的です。
歯周病を疑う自覚症状
- 歯肉の色が赤い
- 歯肉が腫れる
- 歯磨きのときに出血する
- 歯肉がむずがゆい
- 口に中がいやな臭いがする
- 歯肉からウミが出る
- 食べ物がよく歯にはさまる
- 冷たいもので歯がしみる
- 歯が長く見える(歯肉が下がっている)
- 歯が浮いて咬みにくい
- 歯がぐらついている
- 力が入らず咬みにくい
こうした症状があれば早めに歯科受診をしましょう。
このようにセルフケアに加え定期検診、専門家によるケアの継続、そして免疫機能がよく働くような生活習慣~禁煙、適切かつ規則的な食習慣と十分な睡眠、適度な運動、ストレスの発散~を身に付けることが歯周病治療の重要な条件なのです。最近では定期検診を積極的に行う歯科医院が増えていますので、お口の健康について気軽に相談できる「かかりつけ医」を持つことをお勧めします。
全身の病気にかかっている場合は?
医学の進歩にともない、様々な全身の病気にかかっている方が普通に歯科医院を受診することが多くなっています。そのため、歯科治療を受けるにあたって配慮すべきことが発生してきます。
動脈硬化症や狭心症・心筋梗塞・心臓弁膜症・脳梗塞など心血管系の病気、重症の腎不全、重症あるいは血糖のコントロールが不良の糖尿病、重症の肝硬変、白血病・再生不良性貧血・リンパ腫など血液の病気、頭頸部の癌―といった病気で治療を受けている、病気の治療でステロイド剤を服用している。以上のような方は、抜歯など出血をともなう処置、感染予防、歯科で処方する薬の服用において注意が必要です。主治医の先生に歯科治療を受ける場合の対応についてあらかじめ確認しておくとよいでしょう。
倉敷中央病院では、全身の病気にかかっている方が安全に歯科治療を受けられるよう、診療科間で密接な連携を図っています。
QQ車 院内ニュース
QQ車は、皆さまに倉敷中央病院のできごとを運ぶ(お伝えする)コーナーです。
がん制圧事業功労・岡山県知事感謝状 受賞
9月3日、岡山衛生会館三木記念ホールで行われた平成19年度がん征圧岡山県大会で、当院はがん征圧事業功労者として、岡山県知事感謝状を受賞しました。これは、当院が創立以来患者本位の医療、最新・最高の医学による最良の医療を提供することを基本理念に、岡山県西部における基幹病院として、がんの検診、診断、治療に積極的に取り組んできたこと。また、平成15年には地域がん診療連携拠点病院の指定を受け、その使命を遂行する努力が認められたことによるものと考えます。
がん診療連携拠点病院とは、全国どこでも質の高いがん医療を受けられるようにするために設けられた、がん医療の中心となる病院で、岡山県内では、当院を含めて5つの病院が指定されています。
がん診療連携拠点病院に指定されると、地域のがん診療のレベルアップを図るために医療従事者を対象とした研修会を開催し、がんについて一般の方にも広く知っていただくために公開講座を開催し、がん相談支援室等を設けることになっています。
当院も医療従事者研修会を年3回(その他、各診療科でも多数開催)、市民公開講座を年1回開催し、がん相談支援室では一般の患者さん・ご家族はもちろん、他の医療機関からの相談をお受けするなど、体制の充実を図り、積極的に活動を行っています。また、がん患者さんの診療件数も県下のトップクラスです。
今回の表彰を機に、地域がん診療連携拠点病院としての任務を再認識し、地域の医療機関と協力して、がん診療の向上のため一層努力をいたします。
看護の日 記念行事
5月12日、当院外来棟3階にある大原記念ホールで、「看護の日 記念行事」を開催しました。
今年の講演は「中高年の心の健康」と題して、心療内科主任部長 土田和生が行いました。市民の方も「心の健康」という内容に関心が高かったようで、例年より早くから申し込みがあり、当日は40代から80代まで幅広い年齢層の145名が参加されました。講演は「今までうつ病やアルコール依存症について話を聞く機会がなかった」「これからの心の持ち方を考える上で参考になった」と好評でした。
続いて行われた血圧・体脂肪の測定や看護相談も盛況で、長い行列ができました。また今年、初めて介護相談のコーナーを設けましたが、周囲を気にせずゆっくりと相談にのってもらうことができてよかったと大変喜ばれました。
年に一度ではありますが、地域住民の方に当院看護部の取り組みや、看護の心を知っていただくよい機会になったのではないかと思います。
ナースキャップを廃止します
倉敷中央病院は、10月29日よりナースキャップの着用を廃止することになりました。ナースキャップは看護師の象徴として皆さまに親しまれてきましたが、急性期病院におきましては、ケア実施の際に、機能的でない等の問題点も指摘されるようになり、必要性を検討した結果、廃止を決めました。
キャップを外しましても「看護の精神」に変わりなく、当院の伝統であります患者さん本位の、より懇切丁寧な看護を目指してまいります。患者さん・ご家族をはじめ皆様方には趣旨をご理解いただきますようお願いいたします。