患者さん向け広報誌「Kニュース」No.3
インタビュー
患者さんの苦痛を感じ、思いを受けとめられることが看護の基本です
3月から、看護婦さんの正式な名称が看護師になりましたね。
江尻 男女雇用機会均等法の施行後、男性の看護士が増えたことなどによって、名称の変更が検討されていました。看護師と「師」の文字が使われたことに、社会的な責任の重さと、皆さまの期待の大きさを感じています。その期待にこたえるためにも、皆さまに満足していただける看護のできる看護師を育てていかなくてならないと思っています。
倉敷中央病院では、どのような看護を目指しているのですか
江尻 看護の大切な役割は、患者さんの療養上のお世話と診療の補助をすることです。お一人おひとりの患者さんを人間として尊重し、差別することなく、また、患者さんのご要望をうかがいながら適切な看護を提供することを目指しています。
人工呼吸器をつけていて話ができなくても、表情を見て患者さんの痛み、つらさが感じられる感受性と、患者さんの話がちゃんと聴けて、相手の感情をそのまま受けとめることができるやさしさ、それが看護の基本だと思います。
昨日まで元気だった方が動けなくなり、自分でトイレにいけなくなった時、やっとの思いでナースコールを押して看護師に手伝ってもらおうと思われたのに、その気持ちに配慮した看護ができなければ、患者さんの満足は得られません。日々の業務の中で、このような細やかな心配りが自然にできるのが、本当のやさしさだと思います。そうした感性と、専門性を持った看護師を育てるために、人材育成に力を入れています。
また、提案箱にはご要望やご意見をいただいていますが、これも、私たちの看護を振り返る大切なきっかけとさせていただいています。ご提案いただいたことには適切な対応を考え、事例を共有しています。今後もお気づきの点がございましたら、提案箱をご利用ください。
説明のある医療、患者さん参加の医療が今後の課題ですが、看護の面ではどのように対応されますか
江尻 当院では、質の高い医療を提供するために医師、看護師、その他の医療の専門スタッフが協力してチーム医療を行っています。中でも看護師は患者さんの一番身近でお世話をさせていただいていますので、患者さんのお気持ちを受け止めやすいところにいます。それを生かして、チームのコーディネーターの役割を果たして生きたいと思っています。
インフォームドコンセントの場面では、医師と患者さんの橋渡し役として、患者さんが医師の説明を理解されているかどうかを確認します。患者さんから医師に質問がある時は、それを医師に伝えたり、医師からのお返事を分かりやすくお伝えしていくようにしています。
また看護を行うときは、その目的、必要性、内容などについて、今までより一層詳しく説明し、患者さんのご要望をおうかがいして、計画的に看護の提供ができるように考えています。
医療事故防止については、各種の基準や手順を作るなど、病院全体で組織的に取り組んでおり、看護部では専任のリスクマネジメント担当婦長を置いています。人まちがいを起こさないように、注射や薬の確認を患者さんと一緒に行うなど、コミュニケーションを密にすることで、大きな成果があげられると思います。
患者さんとの関わりで、印象に残っていることは
江尻 患者さんからは、学ばせていただくことがたくさんあります。例えば、心臓の手術直前の患者さんが、「余命まだ延びそう、夢のある話」という川柳を作られました。普通、心臓手術というと皆さんとても不安になられるのですが、この方は、生きる夢を持って手術に臨まれたのです。すばらしいと思いました。
手術も無事成功し、手術という体験をプラス思考として社会復帰をされました。それ以後は、みんなからいただいた命を大切に、有意義に過ごしていらっしゃいます。この方の考え方にはずいぶん感銘をうけました。
こうした患者さんとのふれあいを、多くの看護師に経験してもらいたいと思います。
トピックス
患者さんに届くお膳は一つ、ビタミン愛をそえて
栄養治療部では毎日、1回に約950食の食事を調理しています。
入院された患者さんにとって、食事は治療の一部であると同時に、楽しみ、気分転換でもあると思います。なるべくご家庭での食事と変わらない雰囲気で召し上がっていただけるよう、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく、また食事時間も、お家で食べられる時間に近い時間にお出しするよう心がけています。
ところで皆さま、食事の種類はどのくらいあるかご存じですか。
食事制限のない並食(1回、350食)の他に、病気やその重症度に応じて約20種類の治療食があります。加えて、ご飯の量や柔らかさ、患者さんのお好み(トリ肉が食べられない、エビ・カニがきらいなど)にもできるだけ対応していますので、毎回100種類を超える食事を作っています。
ご希望の食事を選べる選択メニューです
ある日の献立をご紹介しましょう(表)。当院の並食は、毎食、2種類のメニューからご希望の食事を選んでいただく選択メニューです。
「食事の選択は、毎週火曜日に1週間分の献立表をお配りして、ご希望の食事を選んでいただくのですが、メニューを見て、選ぶということそのものも楽しんでいただけているようです。選択の種類を増やすことと、治療食でも選択メニューを召し上がっていただけるようにすることが、今後の課題です。
また入院生活の中で、季節の変化を身近に感じていただこうと、毎月2回、行事食をお出ししています」(栄養治療部給食室室長 藤井玲子)
病院の中でお花見弁当をどうぞ。
行事食は、お正月のお雑煮に始まって、春のお花見弁当(折詰めのちらし寿司です)、秋のくりご飯、クリスマスのロースとチキンなど。夏はさっぱりとしたお素麺などの麺類が好評のようです。
行事食には必ずメッセージカードをつけますが、お返事をいただくこともあり、職員の励みになっています。鏡開きや冬至など、最近はあまり祝われなくなった行事の時には、おどろきのお返事をいただきました。
お盆と食器で見た目も楽しく
また食事では、盛り付けなどの見た目も大切。この春からは、お盆と食器を一新しました。織部、九谷風のお皿からやピンクのかわいいお皿まで、いろいろ揃えましたが、皆さま、お楽しみいただけているでしょうか。
「栄養治療部では、15人の栄養士と28人の調理員で食事を作っています。なるべくお一人おひとりのご要望にかなう食事をご用意したいと、ベッドサイドに訪問してお話をうかがうようにしています。入院生活を少しでも心なごむものにしていただくためにも、ご気軽にお話ください」(藤井)
健康な毎日のために
形成外科をご存知ですか?
形成外科というのは、皆さんあまり聞きなれない名前かと思います。よく言われるのは「えっ、整形外科とは違うの?」とか「一体何をする科なの?」ということです。そこで、形成外科について分かりやすくご説明してみましょう。
形成外科が大学病院や大病院にでき始めたのは昭和50年代の初め頃で、内科や外科などのように古くからある科ではないので、皆さんがあまりご存じないのも不思議ありません。
形成外科を一口で定義しますと、先天性および後天性の身体外表の形・色の変化、すなわち醜状を対象とする外科で、形態学的・解剖学的・機能的に正常にすることを目的とする学問です。しかし、これでは何が何だか分からないと思いますので、もう少し分かりやすく言いますと、生まれつき顔や手・足、その他の目で見える部分の形や色に異常がある場合や、生まれてからけが(外傷・熱傷など)やできもの(皮膚の腫瘍など)などで変形がある場合に、できるだけ正常に近く戻す外科と言えます。
したがって、扱う部位は頭から足先までの全身、臓器としては皮膚、皮下組織、筋肉、骨などになります。
生まれつきの病気では
それでは具体的にどのような病気(疾患)を扱うのでしょうか。まず、生まれつき(先天性)の疾患から見てみましょう。
顔の先天性疾患としては、代表的なものに唇や上あごが割れている唇裂や口蓋裂、耳がほとんどない小耳症やその他の耳の変形、鼻の変形、まぶたの一部欠損や、上まぶたが下がっていて前が見にくい眼瞼下垂症、成長するにしたがって下あごが前に出て噛み合わせが悪くなる下顎前突症など、生まれつきの顔のほとんどの変形が形成外科の手術対象となります。
顔以外の先天性の疾患としては、手・足の指がくっついている合指症や、指の数が多い多指症、出べそ、外陰部の変形などが対象となります。
また、赤や青などのアザは、特殊なレーザー治療によりほとんど傷を残さずに消したり、薄くしたりすることができます。黒い大きなアザは手術が必要になります。
生後の病気では
次に、生まれた後から出てくるような病気(後天性疾患)にはどのようなものがあるでしょう。
交通事故、スポーツの事故、けんかなどで多い顔の骨の骨折は形成外科で扱います。また、同じような原因や、やけどなどで傷をした場合で目立つ跡が残った場合も、形成外科手術でかなりきれいにすることができます。もちろん、やけどの初期治療や顔のけがの縫合なども形成外科が専門となります。
もう一つの大きな分野として、皮膚や皮下の良性や悪性のできもの(腫瘍)の切除と、できるだけ元に戻す(再建)手術があります。皮膚の場合、悪性腫瘍でも手術によって完治することも多いですので、皮膚にできものができた場合には、早めに形成外科または皮膚科を受診していただけたらと思います。口の中やのどの奥などの腫瘍や、乳癌を取った後の再建も形成外科の重要な仕事です。乳癌の手術後、乳房の形などが気になる方は、再建についてお気軽にご相談ください。
お年寄りの病気では
また、最近の高齢化社会では形成外科領域においても特有な疾患が増えてきています。例えば、寝たきりのお年よりの増加に伴い、床ずれ(褥瘡)を持つ患者さんが非常に増えてきています。糖尿病などの増加により、下肢の血管の障害による下腿潰瘍の患者さんも急速に増えてきています。
これらの疾患では、ひどくなると命取りになることも多いですので、できるだけ早めに専門医にかかる必要があります。早期なら、手術しなくても改善しますが、ある程度以上になりますと、やはりかなり大掛かりな手術が必要になってきます。
その他にも、上まぶたが年とともに下がってきて、上方や前方が見えにくくなる老人性眼瞼下垂も増加していますが、これも形成外科的手術により改善します。
形成外科と美容外科
最後になりましたが、皆さんは美容整形という言葉はよく聞かれたことがあると思います。実は美容整形というのは現在では正式名称ではなく、病院や医院では美容外科と言います。
よく患者さんから美容外科へ行けば傷が残らずに直るのですか、というような形成外科と美容外科の違いを聞かれるのですが、美容外科は実は形成外科の一分野なのです。したがって、手術する場合、美容外科の方が綺麗になるということはありません。
形成外科で扱う疾患のうち、保険診療が認められていない疾患を扱うのが美容外科となります。例えば二重まぶたにするとか、しみやしわを取るというようなものがこれにあたります。美容外科の治療では、やはり安全性の高い治療かどうかを良く見極めてから治療を受ける必要があります。危険性や副作用などの説明をよくお聞きになってから、決断するようにしてください。
以上、形成外科について簡単に説明させていただきました。これまでに挙げましたような病気にお心当たりがありましたら、かかりつけのお医者さんにご相談の上、お気軽に受診してください。
お願い
初診のさいは、紹介状をお持ちください
皆さまテレビ、新聞などでご存じのことと思いますが、厚生労働省は、より質の高い医療を効率的に提供するために、病診連携、病病連携を進めています。病診連携というのは、初期診療や慢性の継続診療などは診療所の医師(すなわちかかりつけ医)に診ていただき、専門的な検査・診察や、入院が必要な治療は病院が行うということです。同じようにに病院同士でも、それぞれの特長を生かした役割分担をして、お一人おひとりの患者さんにふさわしい医療を行う病病連携を奨励しています。
そのため、健康保険法に定める初診にかかわる特定療養費制度として、200床以上の病院では、紹介状をお持ちにならない初診患者さんの場合、病院ごとに決めた料金を、通常の医療費の他にご負担していただくことが認められています。当院ではこれまで1,000円(税別)をご負担していただいていましたが、6月1日より2,000円(税別)とさせていただきます。
ただし、緊急、その他やむを得ない場合(救急車、公費医療券の患者さんなど)は除きます。事情により当日、紹介状をお持ちいただけない場合でも、後日すみやかにお持ちいただく方法もありますので、詳細は各診療科窓口でお尋ねください。また、歯科は健康保険法上で別扱いになりますので、それぞれでご負担いただきます。
ぜひ、かかりつけ医をお持ちいただき、当院を受診される場合は紹介状を持って受診してくださるようお願いいたします。
紹介状の利点
- 事前に受診日の予約をすることができます(通常では、初診の予約はおとりしていません)。
- 診療所の検査結果をお持ちいただけたら、重複して検査をしなくて済みます。
- 病気の経過がよく判り、病院での診療が迅速、的確に行えます。
当院は急性期医療を中心に行う病院として、地域の診療所の先生方と協力して、今後も引き続き皆さまのためにお役に立ちたいと存じます。なにとぞご理解くださいますようお願いいたします。
QQ車 院内ニュース
QQ車は、皆さまに倉敷中央病院のできごとを運ぶ(お伝えする)コーナーです。
春の宵をモーツアルトで ―倉敷音楽祭のボランティアコンサート―
倉敷出身のチェリスト岩崎洸さんを始め、倉敷音楽祭に出演された日本を代表する7名の演奏家の方たちが、3月19日、セントラル・パーラーで、ボランティアのコンサートを行ってくれました。
お雛さまの飾られた会場は、その日を楽しみにされていた患者さんや付き添いの方で一杯。春の宵にふさわしい、モーツアルトの軽やかな曲に皆さんうっとり。「身近に生の演奏が聴けて、よい時間が過せました」と喜ばれました。
ヘルパー養成講座
倉敷中央病院では、1月から3月まで、訪問介護要員2級課程養成研修講座を開講し、24名のかたが熱心に受講されました。
これは、高齢者の方を地域全体で支えていかなければならなくなった現在、当院が長年蓄積してきた高度な知識・技術を公開し、質の高いヘルパーを養成することにより、地域社会に貢献していきたいと始めたものです。講義はもちろん、実習時間を県所定より増やすなど、充実したカリキュラムになっています。この講座を修了すると、難病患者等ホームヘルパー基礎課程Ⅰの資格も取得できます。
今後も定期的に開講の予定です。
海外からの研修生が見学に
国際協力事業団が開発途上国の医療機関の管理者を対象に行っている研修会に参加している研修生8名が、2月21日、当院を見学に来られました。インドネシア、フィリピン、コロンビアなどから来られた皆さんは、それぞれの国を代表する医療機関の管理者の方々で、院内を見学された後、当院の理念や方針、経営状況、医療の質の向上・医療事故防止のために病院全体で取り組んでいるサークル活動などについて熱心に質問されました。
総合周産期母子医療センターで研修会
岡山県の総合周産期母子医療センターに指定されている当院で、2月と3月に、周産期医療に従事する方々を対象とした研修会を行いました。周産期医療とは、妊婦さん・お母さんと胎児・新生児を対象とした医療です。当院の産婦人科ならびに新生児の専門医師が、当院での産科・新生児医療について紹介した後、同センターの見学がありました。
参加されたのは近隣の産婦人科医師、助産師、看護師さんで、こうした研修会を開催し、医療機関の方々とのコミュニケーションを図ることにより、地域医療に一層貢献していきたいと願っています。