手術支援ロボット ダヴィンチ(da Vinci)による
肺がん手術・縦隔腫瘍手術
当院呼吸器外科では20年前より胸腔鏡手術に取り組み、現在では8割以上が胸腔鏡手術で、そのほとんどが最も低侵襲な「完全鏡視下手術」で行っています。完全胸腔鏡手術は脇の下のあたりに計3か所、約0.5~3センチを切開して小型カメラや手術器具を挿入する手術です。傷が小さく、胸壁・筋肉・肋骨へのダメージが少ないため、より速やかな術後回復が期待されます。
しかし、胸腔鏡手術には直線的な鉗子の動作操作の制限という欠点があります。胸腔鏡手術の持つ低侵襲性を保った上で、その欠点を補完した手術支援ロボットによる内視鏡下手術は、1997年より欧米で臨床応用が開始され、日本でも2012年の泌尿器科領域での保険収載以降、普及しています。
呼吸器外科の領域で代表的な腫瘍性疾患の肺癌(原発性・転移性)と縦隔腫瘍(良性・悪性)は、2018年に保険適用となりました。当院呼吸器外科でのdaVinciロボット支援下手術は、国内資格を取得した上で2019年5月末より開始し、2020年1月までに24例(肺癌22例、縦隔腫瘍2例)と短期間で着実に実績を重ねております。
ダヴィンチのポイント
- 医師は内視鏡の3Dカメラで映し出された鮮明な立体画像を見ながら手術します。この3Dカメラのデジタルズーム機能は、術部を10倍まで拡大することができます。
- 手術操作時に用いるロボットアームは、人の手以上に器用な動きが可能で、狭い隙間でも自由に器具を操作できます。ロボットアームの先端は医師の手と完璧に連動し、自分でメスを持っているような感覚で手術ができます。
- ロボットにしかできない動き(関節の 360度回転など)が加わることで、開胸手術でも困難であった操作を可能とします。手先の震えが鉗子の先に伝わらないように手ぶれを補正する機能があり、心臓の近くの血管や気管支の剥離など、緻密さが要求される作業も正確にできます。
ロボット手術の保険診療について
肺癌(原発性・転移性)
原発性肺癌・転移性肺腫瘍に対するロボット支援下肺葉切除(+縦隔リンパ節郭清)が保険適用となります。これらの疾患は、側胸部に3cmほどの小切開創と8mmのポートを4か所において、二酸化炭素を送気して術野を展開しながら手術操作を行います。当科での一般的な胸腔鏡手術よりもポートが2か所増えますが、ポート径が細く、同一肋間に置くことから、術後疼痛はむしろ少なくなる印象です。特にリンパ節郭清などの精緻な操作では、3D両眼視で術野を拡大して確認でき、多関節な鉗子(ロボット鉗子)を使用できるロボット支援下手術は大変有効です。
手術時間は平均4~5時間程度で、術後翌日より経口摂取・歩行が開始となり、術後5~7日目が退院の目安となります。
縦隔腫瘍(良性・悪性)
縦隔腫瘍に対するロボット支援下手術の適応疾患は概ね従来の胸腔鏡下手術と同様ですが、胸腔上部や横隔膜上といった胸腔内の狭い領域の病変に対しては大きなメリットがあります。前述の8mmのポートを3-4か所に置き、二酸化炭素を送気して術野を展開しながら手術操作を行います。創の位置は病変部位により異なります。
手術時間は平均3~4時間程度で、術後翌日より経口摂取・歩行が開始となり、術後4~7日目が退院の目安となります。
費用と実施医について
2018年4月から肺がん、縦隔腫瘍ともに保険収載され、当院は保険診療の施設認定を受けており、通常の保険診療となります。手術費用は通常の胸腔鏡下手術と同様となります。実際のロボット支援下手術(ダ・ヴィンチ手術)の執刀は、術者(コンソールサージャン)、助手(アシスタントサージャン)ともにロボット手術術者認定証を有し、当院で定めた術者基準を満たしたスタッフが行います。